昔か今かも定かではありませんが、とある時代に、『ガリュー王国』という、大きいような、小さいような、それでいて権力だけは一人前にある国がありました。 その国には、眉目秀麗という言葉が相応しい王子が二人おりましたが、長子がなにやらとんでもない罪を犯し、王位継承権を剥奪され、国を追いやられてしまったために、王位に元々関係がなく、興味もなかった、次男の王子がイヤイヤながらその権利を持つこととなりました。 その王子の名前は、『響也』といい、今日も今日とて、イヤイヤながらも、執務をキッチリこなし、大量に積み上げられた写真は一枚たりとも見ることなく、 それは御年24歳の、王子の見合い写真です。 響也はイヤイヤとは言いつつも、王位継承者です。 「ねえ。これを燃やしておいて。 響也は自分の部屋を、さくさくと、怒りの篭った調子でかりんとうを噛み締めながら、掃除をしている、自分のメイドにそう声をかけました。 「ぼくが話かけてるんだよ。 「絶対返事などするものか!」とばかりに、彼女は一気に三つほど、かりんとうを口に入れ、それを怒りと共に噛み締めています。 「まさか昨日、寝かせてあげなかった事を、そんなに怒っているのかい?」 茜はその言葉に、瞬時に反応すると、持っていたモップの柄を響也へ突きつけると共に、口の中に入っていたかりんとうを飲み込んでから、こう返しました。 「王子!!卑猥な表現をしないでください!!」 茜がグイグイと、モップ柄を響也王子の頬に押付けます。 「アンタね。 それは彼専用のメイドなのだから、仕方がない話なのですが、この強気なメイドには、そんな常識は通用しないようです。 「なんか、チェス以外の理由で、寝かせないなら良い、みたいな言い方だよね」 ちょっと顔を赤らめて、そう猛抗議をしてきた彼女を、微笑みながら見つめつつ、「じゃあ、いいよ」と、言いました。 「ただしこれから先、二人きりで居る時は、茜が"響也"って、ぼくの事を呼んでくれるなら…」 そこで、茜は息を飲み込むと、更に顔を真っ赤にします。 「………分かったわよ。 茜はそう言うと、半べそをかきながら、見合い写真の詰まった袋を持って、響也の部屋を出て行きました。 「……ベッドの上でなら“響也”って、呼んでくれるのにね」 そう呟いた彼の元に、またもや大量に、写真が持ち込まれました。 つづく…かどうかは不明。 ガリュー王国物語(仮)〜逆裁4お伽話〜 2007.08.19 あとがき 個人で楽しんでもらうために、書いた話…。だったのですが…。 響也に「茜」呼びさせるのが、こんなに恥かしい事とは、思いませんでした。 悠梛 翼
「これ、燃やしといて」
と、自分付(専用とも言う)のメイドに、袋へ詰めて渡しました。
次のガリュー王国国王になる人なのです。
両親も兄の事があり、痛い目はもう見たくない。
とばかりに、やたらと見合いを勧めます。
しかし、響也王子は、そのどの写真にも目を通さず、その誰とも会おうとはしません。
なぜなら王子には既に、心に決めた相手が居るからです。
って言ってるんだから、ちゃんと返事をしておくれよ」
しかし、メイドは一向に、返事をしようとはしません。
主の声掛けに応じないメイド。
ある意味、漢らしいメイドです。
命令だから、返事をしなさい、茜」
「さくさくさくさくさく」
そして響也は、その茜の態度に少しむっとすると、彼女へ向けて、こう言いました。
「───── !!」
「まさか、今日もやりたいのかい?
昨日は優しくしてあげたからね。
今日のぼくは、厳しいよ」
「だからにこやかに、卑猥な表現すんなっての!!
単に徹夜でチェスをしていただけでしょうが!!」
しかし響也王子は、なんとも嬉しそうな表情です。
ここ一週間、チェスで人を寝かさずに居るくせに、私に命令するってどういうことよ!!」
「私は眠い!!って言ってるの!!
どんな理由であろうとも、今日は王子に付き合う気はありませんから!!」
コレ燃やしてくるわよ!!徹夜チェスにだって付き合ってやるんだから!!
だから王子の事なんて、呼び捨てになんかしませんからね!!」
その彼女が居なくなり、静けさを取り戻した部屋で、響也は一人、溜息をつきました。
どうやら王子とメイドの恋には、何かと波乱がありそうです。
テーマは、王子と命令と、メイドと呼び捨て、ほんのりエロチシズム。です。
(カミナリで一回呼ばせたきりですから。
常に呼び捨ては初めてで…)