「……ねえ、刑事クン」
「また元に戻りましたね。
はい、なんですか?」
「君がぼくを嫌ってるのって、成歩堂 龍一弁護士の事が原因なんだよね。
君の恩人を、法曹界から追放したぼくが憎いんだろ?」


彼女の姉が関わった事件を知っているから、それを担当した検事と、弁護士の名前は自然と理解していた。
そして、彼女が自分を嫌う最大の理由は、そこにあるのだろう。とも…。


「もちろん。それも原因の一つですよ」


まるでかりんとうを噛むように、さっくりと彼女はそう告げた。
そして彼はその言葉に、眉を寄せる。


「それ“も”?
という事は、それ以外にも、何かぼくを嫌っている理由があるわけ?」


訝しげにしている響也の腕から茜は逃れると、乱れた白衣の襟を、びしっ!と音が鳴るほどに伸ばしてこう告げた。
「もう一つの理由は、あなたには一生理解できないでしょうし、理解していただきたいとも思っていませんから、説明する気もありません。
必要もないですし」
「………………」


かっこよくそう言いきった彼女に、響也は閉口する。
そして、その彼を見た彼女は、彼に背を向けると、「じゃあ」とばかりに、
「スターさんもだいぶ元気になったようですし、私はコレで失礼させていただきます」
スタスタと歩きながらドアへと向かう。


そしてドアノブに手を掛けたところで、響也はその背中へ慌てて声をかけた。


「あ…の…。今日はどうもありがとう。
今度このお礼に食事でも───」
「いきませんから、食事なんて。
お礼というなら、このヤな事件の事後処理から早急に上がりたいので、書類チェックをパキパキこなして、とっとと解放して下さい。
では、失礼します」
言うが早いか、茜はとっとと、部屋を出て行ってしまった。
そう、響也が「ご苦労様」の一言すら掛けられないほどの早業で。


「え…あ…ハヤ!」
そう口にしてみた所で、それに対して返してくれる者が居るわけでもなく、響也は深い溜息を零すと、再びその身をチェアーへと沈めて、呆れたように独り言を口にする。


「まったく。
ぼくは本気で言ったのに…。
君が慰めてくれたんじゃなかったら、こんなにすぐ、立ち直るなんてできなかったんだよ。
まったく、こういう方面には鈍感なんだよな。茜さんは…」


チェアーに身を沈めた瞬間、今までの疲れがどっと押し寄せ、彼を睡魔が襲ったが、机の上の書類に目が留まり、頭を左右に振ると共に、両頬をパンパンと、叩いて睡魔を振り払うと、机へと向かう。


───…これ以上彼女に嫌われたくない。


そう思った瞬間、検事の仕事に専念すれば、彼女の自分に対する見方も変わるのかな?
などと考えて、検事一本に専念するのも悪くないかもしれないと、真剣に迷いだす。


そして彼女の文字の一つ一つを確認しながら、こうも思った。


───…まったく。
ぼくをここまで振り回した女性は、茜さんが初めてじゃないか…。


しかし、自分が相手に惚れてしまった以上、もうどうしようもない。
『恋愛は惚れた方が負け』、とは誰かが言ったそうだが、まったくもって、今の彼女と自分の関係は、まさにそれだと思う。


そして、彼女こそ自分にとって、苦いけれど、とてもよく効く特効薬なのだとも理解した。



苦い薬ほど…

2007.09.11



あとがき

今回は、真野と十年以上の付き合いで、初めての試みです。
「私、どうして真野の物を、手直ししてるんだろう」
「しかも、すごく恥ずかしいのだけど、この羞恥心は何?」
と、自問自答、悪戦苦闘、七転八倒…。と、とにかく、苦戦を強いられた作業でした。
この作業するにあたり、真野の持っているネタの全て(でも必要な物しか提出してないから八割くらいかな?という話)を出させて、セリフはシナリオに書いてあった物を一言一句違えずに、(言い回しなどでおかしい物には、若干、手を加えてありますが)場面指定がある物も、そのままにして、文章へと手直ししてみました。


最後に、この原稿を真野に受け渡す際、
「恥ずかしいわ、このボケぇ〜!!」と、原稿を入れた封筒を投げつけた上で、
「自分で書こうよ。自分の作品は…さ」と、苦情を言ったのは言うまでもありません。


真野が、「(霧人に対して)優しい人だったんだよ」と描写していてくれた事と、霧人話の某台詞の差し替えに、思わず目から鱗を落とした上で、小躍りして喜んだ、悠梛 翼でした。




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