法介はそんな彼のスマートな態度に、またしても『カッコよくてムカつく』と、内心、太刀打ちできない事を認めたうえで、なんとも言えない、やるせなさを覚える。
 成歩堂は成歩堂で、『どさくさに紛れて』と、みぬきの態度に呆れていた。

「つまりガリューさんは、検事も、ロックも辞めないって事ですよね!」
「うん。辞めれないよね。ファンにここまで熱望されちゃあ」
「わ〜い!みぬき、ガリューさんのそういう所大好き!」

 そう言ってまたみぬきは、ギューっと、響也に抱きついた。
 その彼女に法介がすかさず言う。

「そういう所ってどういう所だよ!」
「そういうって?もちろん、決断力が早くて、カッコ良くて、王子様な所ですよ!
 なんて言うのかな?女の子を泣かせたくないという、紳士らしさとも言い換えられる、女の子なら誰でもときめくような、ステキな所ですよ!」
「…本人を目の前に、しかも抱きつきながらよく言えるよね。そういう恥ずかしい事を…」
「え〜!!本当の事だもん。本人を目の前にしてるからこそ、もっと言いたいくらいですよ!」
「まぁまぁ、お嬢ちゃん。おデコくんは、単に嫉妬してるだけだから。
 ぼくがお嬢ちゃんの事を独占してる事に対して。…ね」

 響也のその言葉で、空気が凍る。
 それってつまり?

「違いますよ!変な誤解を受けるような事を言わないでください!!」
「あれ?違うの?」
「違いますよ!!みぬきちゃん、オレより七つも年下じゃないですか!!」
「まあ、ぼくとだと九つだけど、彼女、後、五年すれば二十歳だよ。
 二十歳になったら、七つとか九つとかはたいした年齢差じゃなくなると思うけど」

『五年後の話なんて今はしてないし、そもそも、何でオレがみぬきちゃんの事が好きだという前提で、話が進むんだよ!
 この人絶対おかしい!!っていうか、本当に牙琉先生の弟なのか?
 顔はソックリでも中身は全然違うぞ!!』

 そんな事を思いつつ、顔を真っ赤にさせながら、パクパクと陸に上がった魚のように、法介が口をパクパクさせ、喘いでいる姿に、成歩堂は半眼を向ける。

「オドロキさんが嫉妬してるのはガリューさんに対してですよね。
 だってオドロキさん、ガリューさんみたいなこと言っても、全然、様にならないし、第一、ガリューさんにからかわれた事にも気がつかずに、本気で反論してる辺り、オドロキさんはまだまだ子供ですよ…」
『ねぇ〜』

 と、響也とみぬきが楽しそうに顔を見合わせ、お互い同じ方向に頭を傾けつつ語尾だけハモってみせる。
 なんかその二人の仲の良さにも正直、腹が立つ。
 そもそも、中学生のみぬきの方が、恋愛感情とかそういう事に対して、初心じゃないのがますます腹立つ!

「じゃあ、お土産も渡せたし、ぼくの言いたい事も伝えたし、かわいい女の子の要望にも応えられた上に、おデコくんをからかって満足したから。…仕事も溜まってるし、もう帰るね」
「え〜。もうちょっと、ゆっくりしていけば良いのに」
「はは。じゃあ、それはまた今度、暇な時にでも…ね」
「ああ!もう帰れ!!この疫病神!!貴様と顔を合わすのなんて法廷だけで充分だ!!
 ってか、アンタと牙琉先生が似てるところなんて、本当に顔だけだって事が、今日の一件で骨身に染みて分かったよ!!」

 法介がからかわれたと知って、顔を更に真っ赤にして、そう捲くし立てるように指を突きつけて言ってきたので、響也はいつもどおりの爽やかな笑顔を浮かべると、「じゃあね」と言い、帰ろうと扉に手を掛けてから「ああ。そうだ。王泥喜弁護士」と、真剣な声で法介を呼んだ。

 その彼の真剣な声音に、今まで頭に血が上っていた法介の熱が、一瞬にして冷める。

「…ありがとう」

 その言葉だけを残して響也は、成歩堂なんでも事務所を後にした。

「…ありがとう?ってまさか、オレがあの人にからかわれた事に対しての礼?
 それともあの人なりのお詫び?」
「さあ。あの言い方は違う事に対しての礼だと思いますけど」
「…オレ…あの人に何かしたかな?」

 う〜ん。と、額に人差し指をあてがって、悩んでいる法介に、成歩堂が「気がついてなかったのかい?」と、声をかける。

「オドロキ君は、彼と会話をしている間に、三回、牙琉の事を口にして、その三回とも、“先生”と呼んでいたんだよ。
 無意識での発言だったからこそ、彼はそれを嬉しく思ったんじゃないのかな?」

 言われて初めて法介は、その事に気がついた。
 そして、改めて考える。

 結局の所。
 あんな事があったにせよ、彼にとっての牙琉 霧人は、自分の師匠に当たるのだ。
 法廷での基本テクニックを教えてくれたのも彼だし、書類の書き方一つにしても、心構えにしても、弁護士の基礎は彼から学んだ。
 その事実はどうやっても変わらない。

「…感謝されるほどの事でもないのに…」

 どんな事があっても、変わらないたった一つの真実はどこにでもある。

 響也にとって、彼が優しい兄の姿が変わる事の無い真実であるように、自分とっても、弁護士の牙琉霧人が師匠であるのは変えようが無い真実なのだ。
 例えそれが、許されざる大罪を犯した人間だったとしても。

「そんな事よりオドロキさん」
「…そんな事って」
「早くプリン食べましょうよ!というか、いらないなら私一人で、全部食べちゃいますよ!」
「だ…誰がいらないって言ったよ!!食べるよ!!」

 そう言いながら騒ぎ出した二人を、成歩堂は微笑みながら眺め、弁護士の資格を取り直そうと、改めて考えていた。

2007.07.



あとがき

アレ?
今回のテーマは、響也みぬき…だったはずなのに、いつの間にか、ごちゃまぜな内容になってしまいました。

今、気がついた事なのですが、私の場合、霧人を出したいなぁ〜。と思うと、ネタが暴走してしまいます。
真野的にはNGだったようですが、私的には霧人はかなりHit!したので、どうも彼に対して、妙な執着心が沸いてしまうようです。
兄ちゃん、突っ込む所多すぎて、可愛く思える。
(何で最初から、自殺を範疇に入れないで、弁護しようとしていたのか。とか、自爆しちゃう所とか、頭良さそうなわりに、悪いよなぁ〜。と)
でも好きとは言っても、逆裁のキャラで誰か一人に生まれ変われると言われても、霧人だけはいやですけどね。(絶対に)
(なれるなら、おばちゃんかまれかさんになりたいな。
真野は、人生失敗しない霧人とか言ってましたけど。
人生失敗しない霧人だと、魅力が全然無いでしょうが!!)

ちなみにコレは、響也まことのお話の続きになります。
単体で読んでも話に何の支障もありませんが、時間経過的に説明すると、まことの見舞いに行った後、その足で成歩堂なんでも事務所に響也はやってきています。
そして、響也まことのお話を考えていた時に、ガリューウェーブ解散阻止に、みぬきが絡んでいたら良いな。と思った事がきっかけで、響也が成歩堂にした事に対して、彼なりのけじめをつけに行くお話しを書きたいと、作った作品です。

その結果、兄弟の事とか書かなきゃいけなくなって、果ては、オドロキ君×みぬき!?みたいな内容になってしまい、『ダメだ!!』とばかりに、軌道修正。
しかも、話が尻蕾。
なんか、もやもやしたお話になってしまいました。(本当にごめんなさい)
このもやもや感は、サイトへUPする時にでも、真野が修復してくれると信じつつ。



悠梛 翼





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