そして一度、口をついて出てしまった本音を、もう止める事はできなくなり、感情に任せてそれを吐露してしまう。


「真実を知るためにぼくは、この仕事を選んだんだ。
なのに…。身近にあった真実から無意識のうちに、目を反らしていた。
被疑者不詳となり、あの事件が終っていないと理解しながらも、再捜査をしようとさえしなかった。
いくらでも調べる時間はあったんだ。
なのに、目を瞑り、あの時感じた違和感を、敢えて無視しようとした。
その結果がコレだ。
何が真実を知るためだ、偽善過ぎて吐き気がするよ!」


床に向かって投げかけたその言葉を吐き出した後、床を見つめる後頭部に、ガサリと、音を立て、ビニール袋が置かれる。
置かれた後には、サクサクと、何かを噛み締める音が聞こえてきて、あの刑事の普段の行動から推測し、それは、かりんとうなのだと想像できた。


───…このぼくの後頭部に、かりんとうを乗せるのか?茜さんは!!


そんな事を思っていた彼に、口の中に放り込んだかりんとうを飲み込んだ彼女が、こう告げた。


「アンタ、バカですか?」
「!?」


聞き慣れない単語に、身じろぎし、顔を上げようとしたが、かりんとうで後頭部を思いの外、強く押さえつけられていて、それは叶わなかった。
その抵抗できない彼に向かい、茜は二個目のかりんとうをサクサクと噛み砕きながら、先を続けた。


「確かに。あの事件の後、再捜査をすれば、あなたのお兄さんが、殺人を犯す事もなく、ましてや成歩堂さんの人生も違っていたのかもしれないけど、でももう、今更どうしようもない事じゃないですか…」


そう言い終えた瞬間、ごくりと二個目のかりんとうを飲み込み、三個目のかりんとうを口に放り投げる。


「それに再捜査をしていたら、あなたは今ここに、居なかったかもしれないんですよ」


頭から冷水を浴びせられたような言葉だった。
響也は討たれたように、そのままの姿勢で彼女の言葉を聞いている。


「身内だって躊躇わずに殺しますよ。彼は。
自分の保身を考えて、捏造して、その罪を他人になすりつけた上で、“親友”を名乗って、その相手を監視し続けるくらい、執念深い人なんですから。
あなたのお兄さんは…」


何かを言い返そうにも、響也自身。
兄の執念深い性格について、心の奥底で、よく理解していただけに、反論する言葉が出てこなかった。


「しかも、実の弟すら謀ったんですから」


その言葉に、響也の体が再び、強張る。
それは真実を突きつけられた今でも、信じたくない無かった事。


「そんな彼を救えたかも…。と思ってるなんて、検事は相当なお人好しか、相当なお兄ちゃんっ子だったんですね。
まあ、私もお姉ちゃんっ子ですから、人の事は言えませんけど…」


そう口にした瞬間、茜はかりんとうの袋を、自分の鞄に詰め込んで、「それに」と口にしてから、腕を伸ばす。


「あなたを庇って怪我をした、優しいお兄さんだって…」
「!!!!!!!?」


一瞬、何が起きたのか理解できずに、響也の顔に赤みがさした。
彼女の柔らかな腕が、自分の頭を抱きしめてくれていると理解するのに、一体いくらの時間が必要だったか…。
正直、状況を理解して尚、彼女の心境の変化を理解できずに、苦しんだが…。


「真実の姿じゃないですか」


何よりも甘く、優しく。
耳元で囁かれたその言葉が、自分の中に澱固まっていた物を溶かしていく。
彼女に心配してもらえていると、そう思うだけで。
決して全ての言葉が優しさから発せられた物じゃなくとも、それが彼女の本心から出た言葉だというだけで、心を満たしていく。
それだけで幸せを感じていると、それをどう表現すればいいのだろうか…。
アーティストだというのに、今の気持ちを素直に表す物が、すぐには思いつかなかった。


しかし…。




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